自治市民宣言

自分の頭で考え行動する自治市民~Sovereign Individuals として生きる

自治市民と哲学

哲学って必要?  

普段、自然に哲学という言葉が頭に浮かぶ人でさえ、正面切ってこう聞かれたら、答えに窮してしまうのではないだろうか?

最近売り出し中の哲学者にマルクス・ガブリエルという人がいる。NHKスペシャルの欲望の資本主義シリーズで取り上げられて以来人気を博し、哲学界のミックジャガーとの異名を取っている。

なぜ、ミックジャガーなのか?  ジャガーというとあのセクシーな唇を思い出すだろう。あの唇が象徴するように、雄弁、英語でいうとvocal なのだ。

マルクス・ガブリエルは雄弁である。しかし、ただよくしゃべるだけではなく、わたしたちの日常生活に関して雄弁、それも哲学のコンセプトと日常世界の橋渡しをしてくれる。

彼のこのような姿勢は、えてして難解な専門用語の多用を目くらましとして使う、凡百の学者センセイたちと、根本的に異なる点だ。

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Marcus Gabriel

なぜ今自治市民になるために、彼の哲学が有益なのか?  

それは戦後西洋社会の背骨であった自由と民主主義を否定する政治勢力が勢力、存在感を増していることにある。

さらに、コロナ禍によって世界的に集団ヒステリーが高まり、人々の心が安定を失っている中で、自由と民主主義が必要か?と問うためには、どうしたって一貫した哲学的な思想が必要だと思うからだ。

わたしたちは哲学を欲している。

そのような中で、マルクス・ガブリエルは象牙の塔か敢えて出て、わたしたちに語り掛けてくれている稀有な哲学者だ。

さて、彼曰く、

”トランプはポスト真実時代の有能な政治家だ”  

トランプはいかに間抜けに見えても、ぽっとでのおっさんではない。彼が米国大統領にまで登りつけたその理由を考えてみよう。

時代は、あの苦しかった(といっても実際に経験した人は少ないだろうが)
第二次世界大戦の終了、70年前に遡る。

あれだけの犠牲を払った人々はもう沢山だ、と心の底から感じたはずだ。そして新しい世界、戦争のない平和な世界を心から望んだ。

そのような時代精神マルクス・ガブリエルの言葉でいうとガイスト、の申し子としてサルトル実存主義が人気を博した。

このような嘔吐すべき現実社会、その中で人間のみがあるべき道を選べる、すなわち実存への道を選べる、、とする彼の言説は熱烈な歓迎を見た。つまりは彼が時代精神、ガイストを体現していたからだ。

しかし、サルトル実存主義は、その絶頂の中で突然木っ端みじんに砕かれる。

いわゆる未開の社会といわゆる進んだ西洋社会の間に共通の*構造を見出すことで、進歩的な白人西洋人と未開の原住民社会には根本的な差異などないことを見出した、レビィ=ストロースの構造主義が、サルトルをも”20世紀のヨーロッパにおける西洋社会における自己陶酔的行為”として観察材料へと貶めたことによる。

そして構造主義の時代が始まった。時代的には、全世界的に不穏な空気が漂った1968年以降である。希代のアーティストであったビートルズの音楽を聴くと、それがよくわかる。

St Pepper's Lonely Heart's Club Band 1967

The Beatles White Album 1968 

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Beatles St. Pepper's vs. White Album



この2枚のアルバムを聴き比べていただきたい。たった一年の差なのに、サージェントペッパーのハッピーな夢に比べて、ホワイトアルバム全編に漂うこの苦い思いは何だ?

”人々はサルトル夢想したような英雄的実存的な生き方ができる主体などではなく、外部世界=構造の力学の結束点に過ぎない。” 

という構造主義の時代が始まり、人々は戦後民主主義という確固たる価値軸を失った。

これが今もはびこる真実のない事態=Post Truthの前触れだった。

マルクス・ガブリエルによると、トランプはこのようなポストトゥルース時代を逆手に取ることで権力への道を上り詰めた天才政治家なのである。

人々は構造、ガイストによって影響される、風にもまれて落ちる木の葉のような存在である。あなたの真実は、わたしの真実ではない。絶対的な真実などない。

しかし、このPost Truth哲学は深刻な死に至る病だと思う。

習近平、トランプ、プーチンなどのPost Truth 政治家が危険なのも明らか。

マルクス・ガブリエルは、構造主義によって木っ端みじんに粉砕された実存主義を引きつき、構造主義、相対真実主義、Post Truthを経て、人間的価値を再構築という荒野を歩んでいる。

だからこそ彼の言説は、自治市民にとって有用だ。